強がり女のため息

レオナルド・フジ子

女ひとりで2LDKファミリータイプのマンションを買った話

お正月を迎えて以降、朝の空気が冷たくてベッドから出るまで「あと5分」を何度も繰り返している。2LDKの部屋は、エアコンをつけてもそう簡単には暖かくなってくれない。

 

30代になってすぐ、夫と2人でマンションを購入した。東京都内、東横線沿いのおしゃれな街並み、しかも駅徒歩5分以内でそこそこ広さもある。北関東の中途半端な田舎町出身の私にとってはまさに夢のマイホームだった。

でも、その半年後に私は離婚した。

理由は割愛するけれど、当事者同士のみの話し合いのうえ、何も書類を作る必要なく終わった平和的な離婚だった。マンションについては夫が自分のものにすることを希望し、私は「女ひとりになるし、どうぞどうぞ」という気持ちだったのだが、なんと夫単独では住宅ローンの審査が通らなかった。銀行から「奥様であれば融資します」と伝えられ、私が所有するか、もしくは売却するかの選択肢が残った。

私は迷って何人かの友人に相談した。女ひとりになるのに、2LDKのマンションが必要なのだろうかと。ある友人は「売ったほうがいいよ。家なんて持ってたら今後ヒモみたいな男のターゲットにされるよ」と言い、別の友人は「今はまだ高く売れる時期だし、売ったら?」と言った。その他も、ほとんどが売却を勧める答えだった。

それでも、結局私のものにすることに決めた。管理費や修繕積立金を含めても、今の毎月の住居費は15万円ほど。同じ金額で暮らせる賃貸物件は、今よりも狭く条件も悪くなるだろう。人は、一度手に入れたものを簡単には手放せないのだと、このとき改めて知った。

夫が引っ越した単身向けアパートには、これまで一緒に購入してきた家具のほとんどが入らなかった。それらはすべて引き続き私のマンションに置かれることになり、その代わり、現金数百万円と、冷蔵庫と洗濯機と炊飯器を渡した。お金のことで揉めるのが大嫌いなので、夫の言い値ほぼそのままのお金をためらう暇もなく払ったけれど、銀行口座から一気に数百万円の金額が消える瞬間は、さすがにため息が出た。

 私は、こうして2LDKの主になったのだった。

ここにいるのは私と、老犬1匹だけ。

20代の頃、私はバリキャリ女性に憧れつつも、30歳を過ぎて結婚せずに犬とマンションを買う女性をなんとなく「痛い」と思っていた。お金は稼ぎたいけれど、寂しい女にはなりたくなかった。なのに、気づいたら自分がそっくりそのままそうなっていた。

マンションのエントランスでベビーカーを押す夫婦と遭遇したり、ソファに座ってひとり暮らしには広すぎるダイニングを眺めたりしているときには、胸がぎゅっと掴まれるような心地になる。

惨めだ。だけどそうは認めたくなくて、30代になったばかりの女が東京の優良な不動産を自分ひとりの信用と収入で手に入れたこと、別れると決めた夫と素早く綺麗にさよならしたこと、それらの頑張りと強さは褒めるに値すると、私は自分にひとり拍手を贈る。

強さは、私が最も誇れる武器だ。大人になってから人前で泣いた記憶も、激昂した記憶もほとんど無い。夫が私の目を見て最後に言ってくれた言葉も「君は僕がいなくても生きていけるよ。君ほど強い女性に、僕はこれまで出会ったことがないから」だった。

 

春になったら、朝の空気はもっと暖かくなって、この部屋の広さを実感する瞬間は減るだろう。その前に私が私のためにできることは、エアコンのタイマー設定を覚えることかもしれない。